2014
01.09

ハイレベルな分野へのクラウドソーシングに期待

インタビュー

Contents

テレワークマネジメント・田澤由利氏「よりハイレベルな分野へのクラウドソーシングに期待」

2012年以降、特に2013年には大手企業での活用もはじまったほか、参入企業や資金調達も増え活発になっているクラウドソーシング業界。長年テレワークの啓蒙・推進に関わり、現在では総務省のテレワーク推進事業を担う(株)テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利氏にテレワークおよびクラウドソーシング業界の現在と今後について訊いた。(interview:n.takai)
(写真:2013年12月北海道北見市と東京でのTV会議風景)

 

テレワークとは・・・

テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方
(総務省HPより引用)


フリーランス対象クラウドソーシングサービスが若い力と発想で急成長

田澤さんはこれまで長年テレワーク推進に尽力されてこられました。現在、クラウドソーシングが活発になりはじめています。テレワークという切り口から、現在のクラウドソーシングの盛り上がりをどのように捉えていますか?

「テレワーク」とひとことで言っても、雇用型である「営業社員」や「在宅勤務者」、自営型の「ノマドワーカー」「SOHO」や「在宅ワーカー」など、さまざまなテレワーカーがいます。「クラウドソーシング」を利用すれば、地方に住んでいる人でも、子育てや介護で家から外に出にくい状況にある人でも、企業の仕事を受注できるようになりました。つまり、自営型テレワーカーは、クラウドソーシングのおかげで、仕事の機会が大きく広がったことになります。テレワーク推進に携わってきた人や団体は、クラウドソーシングの躍進をとてもうれしく思っています。

 

東工大比嘉邦彦教授

「クラウドソーシング」という言葉は新しいのですが、ネット上で企業が仕事を発注して、個人が応募する形のサービスは、10年以上前からありました。しかし、さまざまな課題がある中、企業の利用やワーカーの登録が大きく進まず、なかなかビジネスにならなかったというのが現実でした。結果、自営型テレワーカーの方たちも、仕事を得る場を広げることができなかったのです。
そんな中、若い経営者たちが、行動力と新しいアイデアで、「クラウドソーシング」の認知度はもちろん、企業や個人の利用者を広げ、業界を盛り上げてくれているのは、本当にありがたいことです。

 

今、急速にクラウドソーシングの認知・注目が高まり、参入企業や利用者が増加しています。過去のご経験を踏まえ、田澤さんが感じられている、クラウドソーシングの課題などはあるでしょうか。

1990年の後半、パソコンやインターネットが家庭にも普及しはじめ、「SOHO」や「在宅ワーク」がブームになった時期がありました。「地方に住んでいても仕事ができる」「子育て中でも家で仕事ができる」と多くの人が期待しました。さきほどお話したインターネット上でのマッチングサイトも登場した時期です。しかし、在宅で働きたい人は多いのに対し、在宅で働く人に仕事を発注する企業はほとんどありません。需要と供給のバランスが大きく偏る中、価格や品質の低下を招きます。さらには、家で働きたい主婦をだます悪徳業者も増えました。在宅での仕事は「安かろう、悪かろう」が当たり前になり、ブームは去っていきました。
このときの一番の大きな課題は、「個人発注のリスク」でした。企業は、顔の見えない、すぐに来社してくれない個人に発注することをためらったのです。そこで、企業の仕事を受注して、登録されている在宅ワーカーに仕事を発注する仲介企業が登場しました。しかし、ここにも問題がありました。「仕事が限られる」ことでした。離れたところにいる複数のワーカーに仕事を発注するには、デザイン、データ入力、テープ起こし、翻訳など「切り分けやすい」業務しか受注できません。単発発注が多いこと、価格競争が激しいことで、仲介業者もビジネスになりにくい状況でした。

 

クラウドソーシングシステムの高機能化によって利用者増加も納得。

一方で、今のクラウドソーシングを見ると、マッチングのための高度な機能、支払のしくみ、ワーカーの評価制度、そして、企業への積極的なアピールなど、以前のものとはくらべものにならないくらいになっていると思います。多くの企業や、ワーカーが利用するのも、納得です。しかし、根本的な問題も、残っています。「品質の担保」と「業務範囲」です。企業は、個人発注による万が一のリスク(納期遅れや品質不足)を軽減するために、単発で発注できる、デザインやライティングなどの業務が中心になりがちです。日本のクラウドソーシングでの取り扱い業務量をより増やし、より大きくするためには、「業務の幅を広げる」ための新しいしくみやサービスが必要であると思っています。
また、インターネット上での「マッチング」の宿命でもあるのですが、利用者が増えれば増えるほど競争が激しくなり、価格低下をまねきやすいこと、さらに、発注者の「評価」への依存が高まり、一部のワーカーに仕事が集中しやすく新規ワーカーが受注しにくくなる、といったことにも、注意が必要になってくると思います。

 

仕事の幅を広げるために、品質担保と価格の低下防止が必要。
よりハイレベルな分野へのクラウドソーシング活用に期待 ~チーム型の役割と期待~

なるほど。では最後になりますが、今後のクラウドソーシング業界や各社に期待することをお願いします。

私が1998年に作った (株)ワイズスタッフは、在宅ワーカーの仲介業者でした。それが、15年間生き残ることができたのは、他の仲介業者と異なり、「スキルの高い人材」を集めて、「チームで仕事をする体制」を作り、業務の幅や、品質を高めることができたからだと思っています。とはいえ、「一企業」の活動です。登録されているテレワーカーは、わずか150名程度です。
自営型テレワーカーが仕事を得る機会を爆発的に増やすには、クラウドソーシングにおいて、発注企業や成立業務量が増えることが最も効果的です。そのためにも、「品質の担保」と「業務の幅の拡大」に、さらに力をいれていただけたらと思っています。そして、それを実現するには、「個」だけではなく、「チーム(プロジェクト)」での業務の受発注体制の構築、そして「品質担保」ができる会社組織としての受注ではないかと、私は思っています。
ちなみに、最近はチームで仕事を受注するしくみが組み込まれているクラウドソーシングサービスも登場しました。非常にうれしく思っています。チームで仕事をする体制ができると、次にポイントとなるのが「マネジメント」かもしれません。私自身、10年かけて、テレワーカーのチームでよりよい仕事をするためには、マネジメントが必要だと痛感し、「テレワークマネジメント」という会社を別に作ったぐらいですので(笑)。


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株式会社テレワークマネジメント代表取締役 (兼 株式会社ワイズスタッフ代表取締役

1998年、夫の転勤先であった北海道北見市で「在宅でもしっかり働ける会社を作りたい」と(株)ワイズスタッフを設立。さまざまなIT関連業務を受託し、「ネットオフィス」というコンセプトのもと、全国各地に在住する150人のスタッフ(業務委託)とチーム体制で業務を行っている。

2008年には、柔軟な働き方を社会に広めるために、(株)テレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業の在宅勤務の導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。また自らも、場所や時間に縛られない柔軟な働き方である「テレワーク」に関する講演や講義をするほか、ブログやFacebook等で広く情報発信・普及活動を行っている。
(公職・その他)総務省 地域情報化アドバイザー、北海道教育委員会委員、奈良県 こども・子育て応援県民会議委員等要職を歴任

2013年・第13回テレワーク推進賞 奨励賞(社団法人日本テレワーク協会)